当サイトでは、ボルダリングのフォームについて数回に分けて解説してきました。
しかし、始めたばかりの初心者であればともかく、ベテランのクライマーはフォームやムーブが無意識化されているので矯正するのは難しいです。
今回は、これまで解説してきた正しいフォームの無意識化と、フォームを矯正する方法について解説します。
正しいフォームについては以前の記事をお読みください。①~③まであります。
有益な無意識
無意識化とは、フォームやムーブを無意識に選択して実行する事で、正しいフォームやムーブを無意識に行う事は大きなメリットがあります。
上級者ほど無意識にムーブなどを選択している事が多く、しかも正しく正確に実行しています。
ボルダリングジムで、難解なムーブが要求される課題を、上級者が短時間しかオブザベーションしていないのに完登してしまう場面を見たことがあるかもしれません。
フォームやムーブを無意識化することと正確にすることは密接な関係があり、オブザベーションの時間も短くなります。
無意識に正しいフォームなどを選択することができれば、効率的に課題にトライすることが可能になり、上達も加速する事でしょう。
不利益な無意識
有益な無意識とは逆に、正しくないフォームを無意識に行っている場合は多くの不利益があります。
正しいフォームは腕にかかる負荷を全身に分散させ、最小限の力で登ることを第一にしているので、難しいムーブへの対応力と怪我の防止など多くの利点があります。
これが崩れることで、力を出し切ることが出来ないうえに怪我をしやすく、いつまでも特定のムーブが出来ないなどの上達の停滞を招きます。
段階的な無意識レベル
意識と無意識には4つの段階があります。
①無意識+無能 知らない+できない
②有意識+無能 知っている+しかしできない
③有意識+有能 知っている+意識すればできる
④無意識+有能 無意識に出来ている
この4段階に分けられ、④が最も優れています。
ボルダリングを始めたばかりの頃は、つま先ではなく土踏まずでホールドを踏んでいたり、基本的なカウンターバランスも分からず力だけで登っていた経験がどのクライマーにもあるはずです。
ジムに通い続けるうちに、コツを覚えて意識し始め、最終的には無意識に行えるようになります。
正しいコツを覚えれば、正しい方法を無意識化することができるので、非常に有益ですが、もし間違った方法を無意識化してしまうと矯正することが困難になってしまいます。
無意識の前段階は③有意識+有能(知っていて意識すれば出来る状態)なので、間違った方法を無意識化する前に正しい方法に矯正する必要があります。
無意識化する方法
ここまで説明してきましたが、結局のところ正しいフォームやムーブは繰り返しトレーニングするしかありません。
無意識化までの4段階知ったうえで、まずは正しいフォーム知ることから始めましょう。
一つ問題は自分では自分を見ることが出来ないということ。
意識しただけでは変わった気になっているだけで、実際は改善されていないことがほとんどです。
これは、自分を動画で撮影することが非常に効果的です。
本気のトライの時はフォームを気にする余裕がないことがほとんどで、集中力が途切れて普段のパフォーマンスを発揮できないためNGです。
そのため、本気トライでフォームをチェックするのではなく、強度の低い課題で動画を撮影してフォームを覚えるトレーニングをする必要があります。
本気トライとフォームを覚えるためのトレーニングは完全に分けましょう。
人間にもともと備わっている無意識
人間は苦痛や不快なものを避ける本能があります。
ホールドを保持する力はまだ残っているはずなのに、指皮が痛くてつい手を離してしまう経験はあるでしょうか。
このように、人間は力を出し切れば出来るはずの事を途中で投げ出してしまい、出来ない事にする状態になろうとする本能があります。
体が硬いからできなくても仕方ない、リーチが足りないから仕方ないなど、ストレッチすれば改善できることや、ムーブを工夫すれば出来るかもしれないことを最初からあきらめてしまうことがあります。
ボルダリングは一つのムーブが出来ないだけで、その課題を完登することはできません。
出来ないことを避け続けると、そのムーブが出てくる課題は永遠に完登することはできないため、いつかは克服する必要があります。
一度、グレードを上げることから離れて、無意識に避けているムーブがないか考え直してみる必要があるでしょう。
一度出来ても意味がない
フォームやムーブのトレーニング中に一度出来ても、それはその時にたまたま一度できただけで、無意識にその動きが出来なければ、そのことにほとんど価値はありません。
まだトレーニングの段階では意識している段階なので、無意識にはならないはずです。
意識しなくても無意識に出来るようになるまで繰り返しトレーニングすることが必要です。
このようなトレーニングには、負荷が軽く長い課題が適しているため、以前紹介したローカルエンデュランスやスタミナトレーニングを参考にすると良いでしょう。
最後に
どんな一流クライマーも基本のトレーニングは欠かしていません。
本気のトライばかりだと故障の原因や、間違ったフォームを覚えてしまう事にもなりかねないため、むしろ基本のトレーニングや体の調子を整えるトレーニングや柔軟をしている時間の方が長いでしょう。
筋肉等の強度が劣るアマチュアクライマーである我々が、基本をおろそかにして本気のトライばかりでは、故障のリスクは増大するばかりで上達も見込めません。
停滞していると感じる方は、是非一度基本に立ち返ることをオススメします。